令和7年 中小企業診断士1次試験の感想と企業経営理論の労働法

令和7年の中小企業診断士一次試験の企業経営理論については、全体として基本的な知識を前提としつつも、選択肢の表現を丁寧に読み取り、制度趣旨まで踏まえて判断しなければならない問題も見られたように思います。単に用語を暗記しているだけではなく、その内容をどこまで正確に理解しているかが問われた試験だったのではないでしょうか。

 企業経営理論は、組織論、経営戦略、マーケティングなど幅広い分野から出題されるため、どうしても学習の中心はそちらに寄りがちです。一方で、労働法分野は出題数こそ多くないものの、基本的な知識を押さえておけば得点源にしやすい分野でもあります。その反面、あいまいな理解のまま本試験に臨むと、取り切れる問題を落としてしまいやすい分野でもあります。

 本試験では、正解の選択肢を選べるかどうかだけでなく、不正解の選択肢のどこに違和感があるのか、どこが制度の建て付けとずれているのかに気づけるかどうかも重要です。そのため、条文や制度の知識を断片的に覚えるのではなく、全体の考え方も含めて理解しておくことが必要であるように思います。

 以下、令和7年の企業経営理論で出題された労働法関連の問題について、正解選択肢の確認だけでなく、不正解選択肢をどのように外していくかという視点も含めて見ていきます。

目次

令和7年1次試験の感想

 企業経営理論、経営法務および中小企業経営・政策を除いては全体的に難化したように思われます。過去問とは異なる傾向の出題も見られ、過去問をただ回すだけの勉強スタイルでは得点が伸びなかった人もいるのではないでしょうか?特にアプリを用いて隙間時間で勉強をせざるを得なかった受験者は難しい対応を迫られたのではないでしょうか。

 

 特に、経済学・経済政策、財務会計、運営管理、経営情報システムにおいて市販の受験用テキストを丸暗記したり、過去問を回すだけでなく、テキストに載っている内容や過去問で登場した用語をネット検索で調べたり、周辺知識まで勉強するようなスタイルでないと解答することが厳しかったのではと思います。

 例えば、運営管理の第24問でライリーの法則が問われましたが、これまでと異なる出題のされ方でした。単に公式を暗記するだけでなく、じっくりと机に向かい紙の上にペンを走らせて計算をしたり公式を変形するような勉強スタイルで対応力を磨いておかないと試験本番の限られた時間の中での対応が難しい問題のように思われました。

 個人的には、アナログな方法ですが、過去問に加え、わからない言葉や論点は自分で調べてノートにまとめるという勉強方法をとりました。これが功を奏してか4回連続での420点以上獲得となりました。AIの活用が叫ばれている世の中だからこそ診断士としての能力には泥臭いアナログな対応力も求められているのだといわれているような出題傾向の変化のように思われました。

企業経営理論:社労士が解説する労働法問題の解説と説き方

第24問

使用者と期間の定めのある労働契約を締結する労働者(有期雇用労働者)に関する
記述として、最も適切なものはどれか。なお、一定の事業の完了に必要な期間を定
める労働契約については考慮しないものとする。

ア 使用者が、専門的な知識、技術または経験であって高度のものとして厚生労働
大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知
識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間で有期労働契約を締結する場合、
その労働契約は 5 年を超える期間について締結してはならない。

イ 使用者は、就業規則において「退職手当は 3 年以上勤務した者に支給する」と定
めている場合、契約期間を 1 年とする有期雇用労働者を雇い入れたときの労働条
件の通知に際して、退職手当の有無を明示する必要はない。

ウ 使用者は、有期雇用労働者を、有期労働契約期間が満了するまでの間は雇用し
続けなければならず、やむを得ない事由がある場合であっても、当該契約期間の
途中で解雇することができない。

エ 有期雇用労働者が、有期労働契約期間が満了する日までの間に更新の申し込み
をした場合、当該労働者において、当該契約期間満了時に更新されるものと期待
することについて合理的な理由があると認められるときは、使用者は、いかなる
場合も当該契約の更新の申し込みを拒絶することができない。

 この問題は、有期労働契約に関する基本的な知識が問われました。比較的容易に解答できたのではないでしょうか。正解選択肢はアでした。正確な知識があれば正解を選べる問題ではありますが、消去法とした場合のイ以降の不正解選択肢の外し方については以下です。

イ 就業規則には絶対的記載事項と相対的記載事項があります。それぞれの中身は基本的な暗記事項なので覚えている方は×だとわかったでしょう。ちなみに「退職手当」に関する事項はその事項の定めがある場合に記載が必要な相対的記載事項です。「退職」に関する事項が絶対的記載事項なので、この2つの混同を意図した選択肢と思われます。

 この選択肢の場合は、当初の契約期間が退職手当支給要件に該当しないケースですが、退職手当に関する定め自体は存在しますし、契約期間が1年と記されているだけで契約延長の可能性に触れられていません。触れられていない以上、延長の可能性があり雇用契約が3年に達する可能性もありうるわけで、退職手当の有無は最初に明示すべき事項であること判断できると思います。

ウ 「やむを得ない場合」とは、震災レベルの災害が起こった場合も含まれます。そのような非常事態に企業に雇用の義務が課せられるとは常識的にあり得ないと判断できると思います。こういう選択肢では極端なケースを想定すると、割と常識的な判断で正解を選べます。

エ 「いかなる場合も」というのも、極端なケースを想定すれば、震災レベルの災害が起こった、とか、感染症の蔓延で閉店せざるを得なくなった、とかいろいろなケースが想定できます。やはり、こういう選択肢では極端なケースを想定すると、割と常識的な判断で正解を選べます。

第25問

労働安全衛生法第 66 条の 10 に規定する「心理的な負担の程度を把握するための
検査」(ストレスチェック)および厚生労働省の指針に関する記述として、最も適切
なものはどれか。なお、本問における厚生労働省の指針とは、「心理的な負担の程
度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が
講ずべき措置に関する指針」を指す。

ア 事業者は、ストレスチェックを受けた労働者に対し、当該検査を行った医師等
から当該検査の結果が通知されるようにしなければならない。

イ 就業規則においてストレスチェックの受検を義務付けている事業場において
は、事業者は、ストレスチェックを受けることを拒否した労働者に対して、拒否
したことを理由として懲戒処分を行うことができる。

ウ ストレスチェック制度は、特にメンタルヘルス不調を早期に発見し適切な対応
を行うことを主たる目的として、定期的に労働者のストレス状況について検査を
行うものである。

エ ストレスチェックの結果通知を受け、心理的な負担の程度が厚生労働省令で定
める要件に該当する労働者が、保健師による面接指導を受けることを希望する旨
の申出をしたときは、事業者は、保健師による面接指導を行わなければならな
い。

 この問題は珍しく労働安全衛生法から、ストレスチェックについての出題でした。これもある程度常識で判断できる問題だったと思います。正確な知識があれば正解であるアの選択肢を選べる問題ではありますが、消去法とした場合のイ以降の不正解選択肢の外し方については以下です。

イ ストレスチェックにおいて事業者はストレスチェックを受けない労働者に対して不利益な扱いを課すような懲罰を課すことはできません。一定規模以上の会社にお勤めの皆さんは経験があるかもしれませんが、会社から配られるストレスチェックに対する回答は基本的に任意なはずです。

 ちなみに健康診断においては、X線による被ばくを恐れた労働者が胸部X線撮影を拒否し続けて懲戒を受けた処分が妥当であったと判断された裁判例があります。その労働者の職業は学校の教師でした。胸部X線による検診は結核の発見を目的として行われるものなので、生徒の健康を守るために教師が結核の検査を拒否する事は許されないと判断された事例です。

ウ 「メンタルヘルス不調を早期発見」ということは、ストレスチェックの結果で病気だと診断されてしまうということでしょうか?そんなはずありません。医師の診察も受けずアンケートのようなストレスチェックだけで病気と診断されてしまうことは常識的にありえないと判断できると思います。ストレスチェックとはその名前の通りあくまでもストレスの程度をチェックするだけです。

エ 「厚生労働省令で定める要件」というのが怪しいです。総務系の実務経験がある方はご存じかもしれませんが、ストレスチェックのシートは厚生労働省から見本のようなひな形が公開されてはいますが、質問項目は各事業場ごとに職場の実情に応じて改変してよいことになっています。サービス業と製造業ではストレスの要因も大きく違うはずです。従って、任意の様式で行っているストレスチェックの判断基準に法的な要件をあてはめること自体が難しいことになります。

第26問

労働施策総合推進法第 30 条の 2 に規定されている、いわゆる「職場におけるパ
ワーハラスメント」および厚生労働省の指針に関する記述として、最も適切なもの
はどれか。なお、本問における厚生労働省の指針とは、「事業主が職場における優
越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等に
ついての指針」を指す。

ア  1 人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させるなどの「人間
関係からの切り離し」は、職場におけるパワーハラスメントの代表的な言動の類
型に含まれる。

イ 事業主は、職場におけるパワーハラスメントを防止するために雇用管理上の措
置を講じなければならないが、常時雇用する労働者が 10 人未満の事業所は、相
談窓口をあらかじめ定めて労働者に周知するなど相談体制を整備する義務までは
負わない。

ウ 職場におけるパワーハラスメント該当性の判断は、労働者個人の主観に基づき
行われることから、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業
務指示や指導であっても、労働者が不満に感じる場合には職場におけるパワーハ
ラスメントに該当する。

エ 職場におけるパワーハラスメントにいう「職場」とは、労働者が通常就業してい
る場所を指す。したがって、社外における取引先との打ち合わせ場所(接待の席
を含む)は「職場」に該当することはない。

 この問題は、労働施策総合推進法からの出題です。社会的にも関心の高いパワハラについての出題です。こちらも正確な知識があれば正解であるアの選択肢を選べる問題ではありますが、消去法とした場合のイ以降の不正解選択肢の外し方については以下です。

ア パワハラの成立要素は主に3つあります。「優越的な関係を背景としていること」、「業務の適正な範囲を超えていること」、「就業環境が害されていること」の3つがあり、そのすべてを満たす状態をパワハラと認定しています。職場で孤立させられるなんて、まさに3つの状態が当てはまり、就業環境が害されている状態です。もちろん、この選択肢が正解です。

イ 令和元年に改正された労働施策総合推進法で会社の規模に関係なくパワハラに対する相談体制の整備は義務化されています。

ウ この選択肢はパワハラ成立要素のうち「業務の適正な範囲を超えていること」という要素を否定するものです。従って×です。

エ 物理的な場所に関係なく、仕事中の出来事は「職場」です。これも常識的に判断できる選択しだと思われます。

第27問

労働基準法第 32 条の 4( 1 年単位の変形労働時間制)に関する記述として、最も
適切なものはどれか。なお、積雪地域の建設業の屋外労働者および隔日勤務のタク
シー運転手のケースは考慮しないものとする。

ア  1 年単位の変形労働時間制により労働させる労働者(対象労働者)の範囲は、労
使協定で明確にしなければならない。対象期間の途中に採用した者に対しては、
当該対象期間の途中から対象労働者の範囲に含めることはできないため、当該対
象期間の途中から 1 年単位の変形労働時間制を適用させることはできない。

イ  1 年単位の変形労働時間制による 1 日の労働時間の限度は 10 時間、 1 週間の
労働時間の限度は 52 時間である。さらに、例えば対象期間を 1 年と定めた場合、
労働時間が 48 時間を超える週が連続 3 週以下であり、かつ、対象期間をその初
日から 3 カ月ごとに区分した各期間において労働時間が 48 時間を超える週の初
日が 3 回以下でなければならない。

ウ  1 年単位の変形労働時間制の対象期間内の全期間にわたって、各日、各週の所
定労働時間を定めなければならないが、対象期間を 1 カ月以上の期間に区分する
こととした場合には、最初の期間における労働日及び最初の期間における労働日
ごとの労働時間を定めておくことで、あらかじめ全期間にわたって定めておく必
要がなくなる。

エ  1 年単位の変形労働時間制の対象期間は、その期間を平均して 1 週間当たりの
労働時間が 40 時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい、 3 カ月を
超え 1 年以内の期間に限ることとされている。

この問題は、1年単位の変形労働時間制に関する問題です。令和7年の労働法4問のうち最も難しい問題だったのではないでしょうか。社労士試験の勉強をしているレベルの人は決め打ちで正解選択肢イを選べますが、消去法で攻める場合のイ以外の不正解選択肢の外し方については以下です。

ア 入退社という割と頻繁に起こるイベントに対して1年という長期間まったく対応できない制度は実際問題柔軟性が低すぎて運用が難しいのではないでしょうか。常識的に何らかの抜け道が残されていそうな所に気付ければ×と判定できます。詳しい説明はしませんが、一旦割増賃金を支払うことで途中入社の方にも変形労働時間制を適用可能です。

イ この選択肢は正解です。少し細かな知識なので消去法で正解にたどり着きたい問題でした。

ウ この選択肢は1か月単位の変形労働時間制の内容です。

エ この選択肢は基本知識で×だと判断できるはずです。1年単位の変形労働時間制は1か月を超えて1年以内が変形期間です。

まとめ

今回の労働法4問については、いずれも極端に細かい知識を問うというよりは、基本的な制度理解ができているかどうかを確認する問題であったように思います。そのため、正確な知識があれば比較的対応しやすい問題が多かった一方で、選択肢の文言を曖昧に読んでしまうと迷いやすい問題でもあったのではないでしょうか。

 企業経営理論の労働法分野は、出題数自体はそれほど多くありませんが、毎年一定数出題される論点であり、得点調整の意味でも軽視しにくい分野です。経営戦略やマーケティングのように抽象的な議論を問うものではなく、法制度の基本的なルールや考え方を押さえていれば対応しやすい分野であるだけに、こうした問題を確実に拾えるかどうかは重要であると思います。

 また、本試験においては、正解選択肢を知識で選ぶことができるのが理想ではありますが、そこまで自信が持てない場合であっても、不正解選択肢のどこが不自然なのか、どの部分が制度趣旨に反しているのかを考えることで、消去法から正解に近づくことも可能です。その意味では、単なる暗記ではなく、制度の背景や考え方まで含めて理解しておくことが、安定した得点につながるのではないかと思います。

 令和7年の一次試験全体を見ると、単に過去問を繰り返すだけでは対応しにくい科目も見られたように思われます。だからこそ、こうした比較的基本知識で得点しやすい分野をきちんと押さえ、取れる問題を確実に取ることの重要性は、例年以上に高かったのではないでしょうか。来年度以降に受験される方は、正解肢だけを覚えるのではなく、なぜ他の選択肢が誤っているのかまで意識して学習されると、本試験での対応力がより高まるように思います。

企業経営理論の労働法問題は、きちんと対策しておけば得点しやすい分野です。ただし、正解を丸暗記するだけでは対応しきれず、不正解選択肢をどう外すかまで理解しておくことが大切です。

 もし、企業経営理論であと少し得点を伸ばしたい、労働法をもう少し整理して理解したいと考えている方は、今回の内容とあわせてnoteも読んでみてください。学習の整理に役立つ部分があるのではないかと思います。

 → 社労士けりけりのnoteはこちら

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