「うちの会社は、人を育てられない」
前職のスーパーマーケットでは、社員やパートさんからそんな声を何度も聞いてきました。
現場には真面目に働く人がたくさんいましたが、人材育成のやり方となると、かなり古いやり方が残っていました。
パワハラに近い態度で接する。
詳しく教えない。
「見て覚えろ」が当たり前。
できない理由を一緒に考えるのではなく、「なんでできないのか」と詰める。
その結果、若手は定着しませんでした。
ピーク時には、新入社員の3年以内離職率が50%を超えた時期もあります。
一方で、40代以降の社員は多いのに、20代・30代の社員は少ない。
若手の管理職候補が育たず、次の担い手が見えない状態が慢性的に続いていました。
私はこの状況を見ながら、ずっと感じていました。
人が辞めるのは、本人の根性や適性だけの問題ではない。
人が育たない会社には、若手が辞めていく理由があるということです。
実際、厚生労働省が公表した最新データでも、新規学卒就職者の就職後3年以内離職率は高卒37.9%、大卒33.8%となっており、若手の早期離職は珍しい話ではありません。
人が育たない会社では「見て覚えろ」が当たり前になっている
教える文化ではなく、察する文化になっている
人が育たない会社の一番の特徴は、教えることが仕組みになっていないことです。
前職でも、丁寧に教える人より、「昔の自分もそうだったんだから見て覚えろ」という感覚の人のほうが多くいました。
本人たちは厳しくしているつもりでも、受け取る側からすると、何をどうすればいいのか分からない。
質問しにくい。
失敗したら怒られる。
だから動けなくなる。
この状態では、若手は育ちません。
労働政策研究・研修機構(JILPT)の2025年調査でも、初職を離職した若者の職場には、教育訓練や職場コミュニケーションに乏しいという特徴が見られました。
若手が辞めるのは「最近の若者の問題」ではない
若手が辞める理由を、「今どきの若い人は打たれ弱い」で片づける会社があります。
でも、教えない職場に入れば辞めやすくなるのは、むしろ当然です。
教育されない。
相談しにくい。
失敗したら責められる。
この環境で前向きに働き続けるのは、かなり難しいと思います。
人が育たない会社は「怒る人」はいても「育てる人」がいない
ミスを責めるだけでは人は育たない
人が育たない会社には、注意する人はいても、育てる人が少ないです。
前職でも、ミスを見つけて怒る人はいました。
でも、なぜそのミスが起きたのか、どうすれば防げるのか、どこまで理解できているのかを一緒に確認する人は多くありませんでした。
ここで厄介なのは、本人たちに悪気がないことです。
自分たちもそうやって育てられてきたから、それが普通だと思っている。
厳しく言うことが指導だと思っている。
だから、やり方が変わりにくいのです。
怒られる職場では挑戦しなくなる
怒られるだけの環境では、人は挑戦しなくなります。
失敗を避けようとして、指示待ちになります。
そして「自分で考えない若手だ」と評価される。
この悪循環が起きると、若手はますます萎縮します。
本当は能力の問題ではなく、安心して学べる環境がないことが問題なのに、本人の資質のせいにされてしまいます。
若手が辞める会社は離職を個人の問題にしてしまう
「根性がない」で終わらせると会社は変わらない
若手が辞める会社は、退職の原因を本人のせいにしがちです。
「根性がない」
「最近の若い人は続かない」
「メンタルが弱い」
こうした言葉で片づけてしまうと、会社の側は何も変わりません。
しかしJILPTの調査では、離職した若者の初職には、教育訓練やコミュニケーションの乏しさだけでなく、法令倫理違反、短期間で大量の離職が起きる傾向、長時間労働、低賃金、職場トラブルなども見られました。さらに、人手不足で業務が回らない、休みが取りにくい状況も離職につながる傾向が確認されています。
離職は職場の構造問題でもある
前職でも、誰かが辞めるたびに現場の負担は増えました。
人が足りないから教育の時間がなくなる。
教育ができないから新人が育たない。
育たないまま辞める。
そしてまた人が足りなくなる。
このループに入ると、現場はどんどん苦しくなります。
つまり、若手の離職は個人の問題ではなく、職場の運営そのものの問題でもあるのです。
人が育たない会社ほど年齢構成がいびつになりやすい
若手が定着しないと、次の担い手がいなくなる
私がいた会社では、40代以降の社員は多い一方で、20代・30代は相対的に少なくなっていました。
若手が定着しないからです。
その結果、一番困るのは、次の管理職候補がいなくなることです。
主任やチーフにしたい人がいない。
任せたくても、育つ前に辞めてしまう。
残った中堅に負担が集中する。
その中堅も疲弊していく。
小売業は人材確保そのものが難しくなっている
総務省統計局の2025年平均結果では、「卸売業,小売業」の就業者数は1029万人で、前年より16万人減っています。小売は今も大きな雇用の受け皿ですが、就業者数は減少しています。
さらに、総務省統計局の資料では、65歳以上の就業者を主な産業別に見ると、「卸売業,小売業」が132万人で最も多くなっています。
もちろん、年齢が高いこと自体は問題ではありません。
ただ、若手が育たず抜けていく一方で、高年齢層に支えられている構造が続けば、将来の担い手不足はさらに深刻になります。
育成よりも目の前の業務を回すことが優先されている
忙しい職場ほど「教える時間」が消えていく
人が育たない会社では、育成よりも目の前の作業が優先されます。
小売の現場は忙しいです。
売場づくり、発注、品出し、接客、クレーム対応。
人が足りなければ、なおさら教育に時間を割けません。
前職でも、新人にゆっくり教える余裕がない日が多くありました。
すると、教えるより「とにかくやって」が増える。
新人は分からないまま動く。
ミスをする。
怒られる。
萎縮する。
辞める。
仕組みがないと現場任せになる
本来は、忙しいときほど最低限の教え方やフォローの仕組みが必要です。
ですが、人が育たない会社ほど、その仕組みがありません。
マニュアルがあっても形だけ。
教える人によって内容が違う。
フォローする基準もない。
この状態では、誰が新人につくかで成長が左右されてしまいます。
若手が辞めるのは甘えではなく「ここでは育たない」と感じるから
厳しいことより、見込みがないことがつらい
若手は、ただ厳しいから辞めるわけではないと私は思っています。
厳しくても、成長できる実感があれば残る人はいます。
ちゃんと見てもらえている。
失敗しても次につながる。
少しずつ任される。
そういう感覚があれば、人は踏ん張れます。
逆に辞めたくなるのは、
- ここにいても何も変わらない
- どう頑張れば認められるのか分からない
- この会社では自分は育たない
と感じたときです。
伸びる人も、関わり方次第で辞めてしまう
これは、私自身が現場を見ていて強く感じたことです。
辞めていった人の中には、能力が低い人ばかりではありませんでした。
むしろ、もっと丁寧に関われば伸びたはずの人も多かったと思います。
若手が辞める会社は、能力のある人を失っている可能性があります。
それは会社にとって、かなり大きな損失です。
人が育たない会社の特徴をまとめると
ここまでをまとめると、人が育たない会社には次の特徴があります。
- 教える文化より「見て覚えろ」が強い
- 怒る人はいても、育てる人が少ない
- 離職を本人の問題にして、職場の問題として見ない
- 人が辞める前提で回してしまい、年齢構成がいびつになる
- 目の前の業務を回すことが優先され、育成が後回しになる
- 若手に成長実感を持たせる仕組みがない
こうした状態が重なると、若手は定着しにくくなります。
そして若手が辞めることで、さらに教育余力がなくなる。
会社はますます人を育てられなくなります。
まとめ|人が育たない会社は若手だけでなく会社の未来も失う
私は前職のスーパーマーケットで、
- 人が育たない
- 若手がすぐ辞める
- 次の管理職候補がいない
という状態を現場で見てきました。
これは単なる不満ではなく、会社の未来に関わる問題です。
若手が辞める会社は、今いるベテランの負担も増やします。
中堅の消耗も進みます。
現場の空気も悪くなります。
そして最後には、「誰も育たない会社」が完成してしまいます。
厚生労働省やJILPT、総務省統計局のデータを見ても、若年離職、教育訓練の不足、人手不足は、すでに社会全体の課題です。
だからこそ、若手が辞めることを「最近の若者の問題」で終わらせてはいけない。
本当に見るべきなのは、その会社に、人を育てる土台があるのかです。
もしあなたの職場でも、「若手が続かない」「教えても辞める」「次の担い手がいない」と感じているなら、
それは個人の問題ではなく、会社の育成のあり方そのものを見直すサインなのかもしれません。
参考資料
- 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00010.html - 労働政策研究・研修機構(JILPT)「若年者の初職における経験と若年正社員の離職状況 ― 第3回若年者の能力開発と職場への定着に関する調査 ―」
https://www.jil.go.jp/institute/research/2025/250.html - 総務省統計局「労働力調査(基本集計)2025年(令和7年)平均結果の要約」
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/youyaku.pdf - 総務省統計局「Ⅱ 高齢者の就業」
https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topi142_02.pdf

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